気分は日記

あんまり調べずに書く、よくある感じの日記です。

簡単日記(20231211)

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 著、酒寄進一 訳『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』を読む。カシュニッツは1901年のドイツ・カールスルーエに生まれた詩人であり小説家。夫は考古学者らしい。『その昔、N市では』は「奇妙な味」と呼びたくなる話が多いが、言い切るには少しおさまりが悪い。ホラーのようでもあるし、幻想小説が持つある種のリアリティも感じる。この世のものならぬ船に乗ってしまった妹の様子を妹自身からの手紙で知る《船の話》、間借り人の若くて美しい娘を天使と呼びながらすべてを搾取されていく老女の独白《いいですよ、わたしの天使》などが印象的。どちらの話も状況を語る主体である妹・老女が、自らが置かれている状況がおかしいと認識しながらも物語に流されていく。冷静さが役に立たないのが恐ろしくておもしろい。読む側もテキストが持つ雰囲気の力で「ここ」から移動させられ、「よくわからぬどこか」で放り出されてしまうような変な小説集だった。