ベン・ラーナー 著、木原善彦 訳『10:04』を読む。“僕”が立たされる岐路で選択した先にありえる未来について。タイトルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にてマーティーがデロリアンで過去から現代に戻って来るときに雷が落ちて止まった時計台の時間から、だそう。
翌日、ベッドから起き出し、コーヒーを――閉じた傷口がまた開いたりしないようにアイスで――飲んだとき、彼は気付いた。僕は覚えている。タクシーのこと、あの風景、ライザの髪をなでたこと、言葉にされることのないまま消える運命にあるあの美しさを。僕は覚えている。それはつまり、あれが現実の出来事ではなかったということだ。(P.93)
私小説ともSFとも言えぬ、どちらかというとラテンアメリカ文学のような微熱と目眩を帯びた物語だと思うのだけど、ニューヨークで新しい小説の執筆に取り組む詩人の日常を描いているせいか都会的なトーンの中で小さな不安が付きまとう「いまの生活」が感じられてユニークだった。
- 作者: ベン・ラーナー,木原善彦
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2017/02/22
- メディア: 単行本
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